1923〜現在 | 10万人が見守ってきたサッカーの殿堂
ウェンブリーの魔力——「聖地」が生み出した伝説の名場面
「ウェンブリーでプレーする」——この言葉は長年、サッカー選手にとっての最高の夢を意味してきた。1923年の開場以来、W杯決勝、欧州選手権、CLファイナルの舞台となってきたこのスタジアムは、単なる競技施設を超えた「サッカーの聖地」だ。その歴史を彩る名場面を振り返る。
1923年——「白馬のウェンブリー」と10万人を超えた観衆
1923年4月28日、ウェンブリー・スタジアムの開場試合となったFAカップ決勝(ボルトン対ウェストハム)は、サッカー史上最も混乱した試合の一つとして記録されている。当時のスタジアムの収容人数は約12万人だったが、実際には20万人近い観衆が押し寄せ、ピッチにまで溢れ出した。
この事態を収拾したのが、警察の騎馬隊だった。白馬に乗った警官ビリー・ブランドンが観衆をピッチから押し出す場面が象徴的な写真として残り、「白馬のウェンブリー」として語り継がれることになった。混乱の中でも試合は行われ、ボルトンが2-0で優勝した。
1966年W杯決勝——イングランド唯一の世界制覇
ウェンブリーが最も輝いた瞬間の一つは、1966年W杯決勝だろう。ホスト国イングランドが西ドイツと対戦し、4-2で勝利した。ハースト(ジェフ・ハースト)は決勝でハットトリックを達成した史上唯一の選手として名を残した。
物議を醸したのは3点目だ。ハーストのシュートがクロスバーに当たってゴールライン上に落ちたように見えたが、実際にラインを割ったかどうかは今も議論がある。ソ連の線審がゴールと判定し、イングランドの優勝が決まった。現在もVAR技術が存在しない時代の「幻のゴール」として語り継がれている。イングランドにとってこの1966年の優勝が、今もなお唯一のW杯タイトルだ。
1992年——旧ウェンブリー最後の輝きと新スタジアムの誕生
旧ウェンブリーは2000年に閉鎖され、2003年から解体・建て替えが行われた。「ツインタワー」と呼ばれた双塔を持つ旧スタジアムの姿は、イングランドサッカーの象徴として多くの人の記憶に残っている。
新ウェンブリーは2007年に完成。収容人数9万人、開閉式の屋根を持つ現代的な施設として生まれ変わった。アーチ型の巨大な構造物(高さ133m)は新たなランドマークとなり、ロンドンの空から見える存在感は旧ツインタワーに劣らない。新スタジアムでも2011年のCL決勝(バルセロナ対マンチェスター・ユナイテッド)、ユーロ2020決勝など、歴史的な試合が行われてきた。
ウェンブリーの「魔力」は建物にあるのではなく、そこに積み重なった記憶と感情にある。「ウェンブリーでプレーした」という事実が選手の人生を変え、「ウェンブリーで見た」という記憶がファンの人生を彩る。その積み重ねこそが、この場所を「聖地」たらしめている。