マドリーはなぜカンプ・ノウで勝てたのか
バルセロナ 1-2 レアル・マドリード — リーガ第10節 図解戦術レビュー
■「戦術ボード」で勝ったクラシコ
リーガ9戦全勝、しかも大本命。そんなフリック監督のバルセロナを、モウリーニョのマドリーがカンプ・ノウで倒しました。 エムバペの2ゴールばかりが目立ちますが、この勝利、実はかなり「戦術ボード」で勝ち取ったものです。
今回は、ASがYouTubeで始めた新番組『5 Carriles con Blaya』の第1回をベースにします。 戦術アナリストのAlbert Blaya氏が、司会のGuillermo Casquero氏と一緒にこの試合を解剖していて、カギとして挙げたのは3つ。 「ベルナルド」「バルベルデという要素」「ククレジャ」です。
番組の戦術ボードの配置をもとに、ポイントになった場面を順番に見ていきましょう。
■両チームのスタメン
バルセロナ
4-2-3-1
レアル・マドリード
4-2-3-1
※番組の戦術ボードの配置をもとにした試合開始時の並び。背番号はボードの表示どおり
マドリーは、インフルエンザのクルトワに代わってルニンがゴールマウスへ。出場停止のヴィニシウスの代わりに、左サイドにはディオマンデ。 そして注目は中盤です。チュアメニの隣にベルナルド・シウバ、その前にベリンガム、右にギュレル。 「ベルナルドとギュレルを一緒に使う勇気はないだろう」と言われていた組み合わせを、モウリーニョは大一番でぶつけてきました。
一方のバルセロナは、最終ラインにケガ人が続出。右SBにはカンテラ出身のシャビ・エスパルト、左SBにはカンセロという急造の並びでした。 このDFラインの事情が、試合を大きく左右することになります。
■ポイント①:バルセロナのプレスの「穴」
Blaya氏が最初に挙げたのが、試合を大きく左右したバルセロナのプレスです。
フリック監督の狙いは、マドリーにいつも「外」から組み立てさせること。 そのために、両ウイングのゴードンとラミン・ヤマルを、マドリーのCB(コナテとハウセン)に向かわせます。
バルセロナのプレス:両ウイングがCBへ。その結果、マドリーの両SBがフリーに
【問題は、SBが「遠すぎる」こと】
ウイングがCBに行くと、マドリーのSB、バルベルデとククレジャには誰もいなくなります。 そこに寄せるのはバルセロナのSB(エスパルトやカンセロ)の役目なんですが、とにかく距離が遠い。
モウリーニョがやったのは、まさにここを突くこと。 バルセロナのSBを手前に引きつけておいて、ボールをバルベルデやククレジャに預ける。 SBが何十メートルも走って寄せる頃には、もうボールは次へ。そこからマドリーは前進し、ディオマンデを何度も走らせました。
【右SBのバルベルデは「前を向ける」】
司会のCasquero氏は、「この試合、バルベルデは中盤にいた試合よりも、右SBからのほうがビルドアップでサッカーをしていた」と話しています。
Blaya氏の答えはシンプル。バルベルデの弱点は、時間とスペースがないとき。中盤でチュアメニの隣にいると、背中にプレッシャーを受けて体の向きを変えるのに苦労します。 でも、SBで低い位置から前を向いてプレーできれば、あの世界レベルのキックで一気にゾーンを越えられる。 しかも、バルセロナが前から行くと後ろが3対3になることも多く、空いたスペースをククレジャが使えました。
■ポイント②:先制点は「狙いどおり」の形
エムバペの先制点は、ジェラール・マルティンのクリアが当たって入った、ちょっとラッキーなゴールに見えます。 でもBlaya氏いわく、「こういうのを全部『バルセロナが勝手に失点した』で片付けるのは簡単。でも実際は、全部プレスの悪さの結果」。
先制点の形:エスパルトがククレジャに食いついた背中へ、ディオマンデが抜け出す
ラミン・ヤマルがハウセンに飛び出すと、ボールを受けるのはククレジャ。 そこへエスパルトが寄せるんですが、その瞬間にディオマンデがエスパルトの背中へ抜け出します。 ククレジャからディオマンデへパスが通り、ディオマンデの低いクロスがエムバペの先制点につながりました。
【エスパルトの負傷交代が転機に】
バルセロナのSBが前にプレスに出るには、もう片方のSBが内側に絞ってカバーする「引きずり」の動きが必要です。 その分、反対サイドは空く。ディオマンデは、ラミン・ヤマルが一度もククレジャ相手に持てなかった「スペースのある1対1」を、何度も手にしていました。
Blaya氏は、エスパルトが負傷交代した時間帯を「試合の転機の一つ」と見ています。カンセロが右に回り、左にはバルデ。そこからバルセロナはさらに苦しくなりました。
【ベルナルドは「クロースのように」】
前半40分25秒の場面も、番組で紹介されていました。 マドリーのビルドアップで、ククレジャは敵陣に張り出し、ベルナルドがCBとSBの間に降りてきて組み立てる。 Casquero氏が「トニ(クロース)を思い出す人もいるだろう」と言う動きです。
これでカンセロは迷い、ラミン・ヤマルも迷う。ククレジャに引っ張られたラミン・ヤマルはプレスに出られず、前に出たのはラフィーニャとゴードンだけ。 バルセロナは真っ二つに割れ、中盤のチュアメニとベルナルドの前には広大なスペースが広がっていました。
■ポイント③:中盤は「1対1」で消す
では守備はどうだったのか。モウリーニョの狙いは、バルセロナに気持ちよくボールを持たせないこと。 そのために、中盤に「1対1」の決闘を仕込みました。
ベリンガム → ロドリ
アンカーのロドリを消す。
ベルナルド → ペドリ
マドリーで最多の30回以上のプレス。ペドリに前を向かせない。
チュアメニ → フェルミン
ライン間に入ってくるフェルミンを捕まえる。
中盤のマンツーマン:ベリンガム→ロドリ、ベルナルド→ペドリ、チュアメニ→フェルミン
さらに両ウイングのディオマンデとギュレルは、SBへのパスコースを見張る役。 中央を1対1で消されたバルセロナに残ったのは、一番簡単なカード、つまり外へのロングボールだけでした。
■ポイント④:チュアメニのカバーと、孤立したラミン・ヤマル
ククレジャの1対1の強さはもちろんですが、Blaya氏が「同じくらい大事」と強調したのがチュアメニです。
バルセロナの得意な形は、10番(フェルミン)がCBを引っ張り出して、その空いたスペースを使うこと。 ところがこの試合は、チュアメニがフェルミンの前に立ちはだかったので、マドリーはCB2枚でラフィーニャを見ていられました。
チュアメニがフェルミンを捕まえ、ディオマンデも戻る。ラミン・ヤマルは「相棒なし」に
そして、ディオマンデの守備。Blaya氏は「ここはヴィニシウスじゃない。ディオマンデは守備で働く」とズバリ。 中央の通り道もディオマンデの助けで締められ、ラミン・ヤマルは完全に孤立しました。
Casquero氏は、カンプ・ノウで現地観戦していて、「チュアメニがベルナルドと組んでプレスできることを、すごく喜んでいるように見えた」と話しています。 ベルナルドがうまくプレスをかけて、チームが下がりすぎないようにした。だからこそ、エムバペを前に残しておく余裕まで生まれたわけです。
■ポイント⑤:ペドリとロドリが「横並び」に
ベリンガムがロドリを、ベルナルドがペドリを見たことで、バルセロナの中盤には大きな問題が起きました。
ロドリが10〜15メートル高い位置でプレーして、ペドリをライン間に送り込む——そういう形がまったく作れなかった。 2人とも、低い位置でボールを受けて運ぶしかなく、多くの時間、同じラインに「横並び」になってしまいました。
ペドリとロドリが横並びになり、ライン間(丸のエリア)が空洞に
【「ギュンドアン」がいない】
Blaya氏が指摘したのは、ライン間の大事なゾーンがぽっかり空いていたこと。 フリック監督のバルセロナが、これまでマドリーを苦しめてきたのは、まさにこのゾーンでした。 でもこの試合、そこに入る選手がいない。右に回るはずのエスパルトは負傷、フェルミンはどちらかというとトランジションの選手です。
結果、ロドリとペドリに残されたのは、フェルミンかラフィーニャへの縦パスだけ。しかも受け手は完全に背中を向けている。 Casquero氏いわく、「自殺的とまでは言わないが、カミカゼ的なパスだった」。パス自体は通っても、その先に本当の優位がないんです。
■ポイント⑥:カマヴィンガがバルセロナを「壊した」
後半、バルセロナの同点ゴールの後は、マドリーも少し下がりすぎた時間帯がありました。 それでも最後は、Blaya氏いわく「モウリーニョらしいやり方」、つまりトランジションで勝負を決めます。
ラストのカギは、途中出場のカマヴィンガでした。
決勝点:ギュレルのスルーパスに、カマヴィンガが2列目から抜け出してエムバペへ
この時間、バルセロナは右にカンセロ、左にバルデ。左サイドではジェラール・マルティンがSBのような位置に引っ張られ、クバルシも動かざるを得ない状況でした。
ギュレルの見事なパスに、フレッシュなカマヴィンガが2列目から飛び出す。 ついていったのは、Blaya氏によるとおそらくバルデ。ただし、遅すぎた。あとは、エムバペが押し込むだけです。
ちなみに、カマヴィンガの投入はもともと守備のため、つまり「バルセロナを抑えるための構造と脚」を足す交代と読まれていた、とBlaya氏。 それが最後は攻撃で試合を決めたというのも、面白いところです。
■で、マドリーは「答え」を見つけたのか?
Blaya氏とCasquero氏の結論は、「モウリーニョは、うまくいくマドリーの形を見つけたのかもしれない」というものでした。
ギュレルは、ボランチの前に
中盤の底ではなく、前で、得意の左足でボールを前へ送る役。
ボランチは「似た者同士」にしない
ベルナルドとチュアメニのような、補い合う2人。モウリーニョも会見で「特徴の似た選手は重ねない」と話していました。
バルベルデは右SBの「つなぎ役」
中盤と最終ラインをつなぎ、低い位置から前を向いてゲームを作る。
アトレティコ戦では、チュアメニを中盤の底に置いた「勝つための」プランがうまくいきませんでした。 そこから立て直し、ベルナルドとギュレルを同時に使う勇気を見せて、カンプ・ノウで結果を出した。
Blaya氏は最後に、「シャビ・アロンソも、アルベロアもできなかったことをモウリーニョはやった。テーブルを叩く、大きな一撃だ」とまとめています。 これがリーガでもCLでも続く「型」になるのか。次のラシン戦からが、本当の答え合わせです。