戦術分析2026年10月28日

マドリーはなぜカンプ・ノウで勝てたのか

バルセロナ 1-2 レアル・マドリード — リーガ第10節 図解戦術レビュー

■「戦術ボード」で勝ったクラシコ

リーガ9戦全勝、しかも大本命。そんなフリック監督のバルセロナを、モウリーニョのマドリーがカンプ・ノウで倒しました。 エムバペの2ゴールばかりが目立ちますが、この勝利、実はかなり「戦術ボード」で勝ち取ったものです。

今回は、ASがYouTubeで始めた新番組『5 Carriles con Blaya』の第1回をベースにします。 戦術アナリストのAlbert Blaya氏が、司会のGuillermo Casquero氏と一緒にこの試合を解剖していて、カギとして挙げたのは3つ。 「ベルナルド」「バルベルデという要素」「ククレジャ」です。

番組の戦術ボードの配置をもとに、ポイントになった場面を順番に見ていきましょう。

■両チームのスタメン

バルセロナ

4-2-3-1

レアル・マドリード

4-2-3-1

1
ガルシア
2
カンセロ
18
マルティン
5
クバルシ
12
エスパルト
16
ロドリ
8
ペドリ
17
ゴードン
7
フェルミン
10
ラミン・ヤマル
11
ラフィーニャ
13
ルニン
17
ククレジャ
4
ハウセン
16
コナテ
8
バルベルデ
14
チュアメニ
20
ベルナルド
25
ディオマンデ
5
ベリンガム
15
ギュレル
10
エムバペ

※番組の戦術ボードの配置をもとにした試合開始時の並び。背番号はボードの表示どおり

マドリーは、インフルエンザのクルトワに代わってルニンがゴールマウスへ。出場停止のヴィニシウスの代わりに、左サイドにはディオマンデ。 そして注目は中盤です。チュアメニの隣にベルナルド・シウバ、その前にベリンガム、右にギュレル。 「ベルナルドとギュレルを一緒に使う勇気はないだろう」と言われていた組み合わせを、モウリーニョは大一番でぶつけてきました。

一方のバルセロナは、最終ラインにケガ人が続出。右SBにはカンテラ出身のシャビ・エスパルト、左SBにはカンセロという急造の並びでした。 このDFラインの事情が、試合を大きく左右することになります。

■ポイント①:バルセロナのプレスの「穴」

Blaya氏が最初に挙げたのが、試合を大きく左右したバルセロナのプレスです。

フリック監督の狙いは、マドリーにいつも「外」から組み立てさせること。 そのために、両ウイングのゴードンとラミン・ヤマルを、マドリーのCB(コナテとハウセン)に向かわせます。

ガルシアカンセロマルティンクバルシエスパルトロドリフェルミンペドリゴードンラフィーニャラミンルニンバルベルデコナテハウセンククレジャベルナルドチュアメニギュレルベリンガムエムバペディオマンデフリーフリーSBは遠すぎる…

バルセロナのプレス:両ウイングがCBへ。その結果、マドリーの両SBがフリーに

【問題は、SBが「遠すぎる」こと】

ウイングがCBに行くと、マドリーのSB、バルベルデとククレジャには誰もいなくなります。 そこに寄せるのはバルセロナのSB(エスパルトやカンセロ)の役目なんですが、とにかく距離が遠い。

モウリーニョがやったのは、まさにここを突くこと。 バルセロナのSBを手前に引きつけておいて、ボールをバルベルデやククレジャに預ける。 SBが何十メートルも走って寄せる頃には、もうボールは次へ。そこからマドリーは前進し、ディオマンデを何度も走らせました。

Blaya氏によると、前半15分の場面では、カンセロが内側を締めたせいで外がガラ空きになり、そこへバルベルデへの大きなサイドチェンジ。 「どれだけ高い位置でプレスしても、寄せが甘ければ、サイドチェンジ一本で無意味になる」というお手本のような場面でした。

【右SBのバルベルデは「前を向ける」】

司会のCasquero氏は、「この試合、バルベルデは中盤にいた試合よりも、右SBからのほうがビルドアップでサッカーをしていた」と話しています。

Blaya氏の答えはシンプル。バルベルデの弱点は、時間とスペースがないとき。中盤でチュアメニの隣にいると、背中にプレッシャーを受けて体の向きを変えるのに苦労します。 でも、SBで低い位置から前を向いてプレーできれば、あの世界レベルのキックで一気にゾーンを越えられる。 しかも、バルセロナが前から行くと後ろが3対3になることも多く、空いたスペースをククレジャが使えました。

■ポイント②:先制点は「狙いどおり」の形

エムバペの先制点は、ジェラール・マルティンのクリアが当たって入った、ちょっとラッキーなゴールに見えます。 でもBlaya氏いわく、「こういうのを全部『バルセロナが勝手に失点した』で片付けるのは簡単。でも実際は、全部プレスの悪さの結果」。

ガルシアマルティンクバルシエスパルトカンセロロドリフェルミンペドリゴードンラフィーニャラミンルニンバルベルデコナテハウセンククレジャベルナルドチュアメニギュレルベリンガムエムバペディオマンデエスパルトの背中マルティンのクリアが当たって先制

先制点の形:エスパルトがククレジャに食いついた背中へ、ディオマンデが抜け出す

ラミン・ヤマルがハウセンに飛び出すと、ボールを受けるのはククレジャ。 そこへエスパルトが寄せるんですが、その瞬間にディオマンデがエスパルトの背中へ抜け出します。 ククレジャからディオマンデへパスが通り、ディオマンデの低いクロスがエムバペの先制点につながりました。

【エスパルトの負傷交代が転機に】

バルセロナのSBが前にプレスに出るには、もう片方のSBが内側に絞ってカバーする「引きずり」の動きが必要です。 その分、反対サイドは空く。ディオマンデは、ラミン・ヤマルが一度もククレジャ相手に持てなかった「スペースのある1対1」を、何度も手にしていました。

Blaya氏は、エスパルトが負傷交代した時間帯を「試合の転機の一つ」と見ています。カンセロが右に回り、左にはバルデ。そこからバルセロナはさらに苦しくなりました。

【ベルナルドは「クロースのように」】

前半40分25秒の場面も、番組で紹介されていました。 マドリーのビルドアップで、ククレジャは敵陣に張り出し、ベルナルドがCBとSBの間に降りてきて組み立てる。 Casquero氏が「トニ(クロース)を思い出す人もいるだろう」と言う動きです。

これでカンセロは迷い、ラミン・ヤマルも迷う。ククレジャに引っ張られたラミン・ヤマルはプレスに出られず、前に出たのはラフィーニャとゴードンだけ。 バルセロナは真っ二つに割れ、中盤のチュアメニとベルナルドの前には広大なスペースが広がっていました。

しかもギュレルが右に大きく開いていて、バルセロナのDFラインはそれに引っ張られる。 内側ではエムバペ、ベリンガム、ディオマンデがDFラインの裏を狙える。プレスに出たバルセロナの選手は遠すぎて間に合わない……。 「まるで2つのチームがいるようだった」とBlaya氏。

■ポイント③:中盤は「1対1」で消す

では守備はどうだったのか。モウリーニョの狙いは、バルセロナに気持ちよくボールを持たせないこと。 そのために、中盤に「1対1」の決闘を仕込みました。

ベリンガム → ロドリ

アンカーのロドリを消す。

ベルナルド → ペドリ

マドリーで最多の30回以上のプレス。ペドリに前を向かせない。

チュアメニ → フェルミン

ライン間に入ってくるフェルミンを捕まえる。

ガルシアマルティンクバルシエスパルトカンセロロドリペドリフェルミンゴードンラフィーニャラミンルニンバルベルデコナテハウセンククレジャベルナルドチュアメニギュレルベリンガムエムバペディオマンデ

中盤のマンツーマン:ベリンガム→ロドリ、ベルナルド→ペドリ、チュアメニ→フェルミン

さらに両ウイングのディオマンデとギュレルは、SBへのパスコースを見張る役。 中央を1対1で消されたバルセロナに残ったのは、一番簡単なカード、つまり外へのロングボールだけでした。

■ポイント④:チュアメニのカバーと、孤立したラミン・ヤマル

ククレジャの1対1の強さはもちろんですが、Blaya氏が「同じくらい大事」と強調したのがチュアメニです。

バルセロナの得意な形は、10番(フェルミン)がCBを引っ張り出して、その空いたスペースを使うこと。 ところがこの試合は、チュアメニがフェルミンの前に立ちはだかったので、マドリーはCB2枚でラフィーニャを見ていられました。

ガルシアマルティンクバルシエスパルトカンセロロドリペドリフェルミンゴードンラフィーニャラミンルニンバルベルデコナテハウセンククレジャベルナルドチュアメニギュレルベリンガムエムバペディオマンデラミンは孤立

チュアメニがフェルミンを捕まえ、ディオマンデも戻る。ラミン・ヤマルは「相棒なし」に

そして、ディオマンデの守備。Blaya氏は「ここはヴィニシウスじゃない。ディオマンデは守備で働く」とズバリ。 中央の通り道もディオマンデの助けで締められ、ラミン・ヤマルは完全に孤立しました。

Blaya氏によると、ラミン・ヤマルはこの試合、チャンスにつながるパスを1本も出せなかったとのこと。 「相棒がいない、つながっていないラミン」。ククレジャの対人の強さに、チュアメニとディオマンデの「影の仕事」が加わった結果です。

Casquero氏は、カンプ・ノウで現地観戦していて、「チュアメニがベルナルドと組んでプレスできることを、すごく喜んでいるように見えた」と話しています。 ベルナルドがうまくプレスをかけて、チームが下がりすぎないようにした。だからこそ、エムバペを前に残しておく余裕まで生まれたわけです。

■ポイント⑤:ペドリとロドリが「横並び」に

ベリンガムがロドリを、ベルナルドがペドリを見たことで、バルセロナの中盤には大きな問題が起きました。

ロドリが10〜15メートル高い位置でプレーして、ペドリをライン間に送り込む——そういう形がまったく作れなかった。 2人とも、低い位置でボールを受けて運ぶしかなく、多くの時間、同じラインに「横並び」になってしまいました。

ガルシアマルティンクバルシエスパルトカンセロペドリロドリフェルミンゴードンラフィーニャラミンルニンバルベルデコナテハウセンククレジャベルナルドチュアメニギュレルベリンガムエムバペディオマンデここに誰もいないペドリとロドリが横並び

ペドリとロドリが横並びになり、ライン間(丸のエリア)が空洞に

【「ギュンドアン」がいない】

Blaya氏が指摘したのは、ライン間の大事なゾーンがぽっかり空いていたこと。 フリック監督のバルセロナが、これまでマドリーを苦しめてきたのは、まさにこのゾーンでした。 でもこの試合、そこに入る選手がいない。右に回るはずのエスパルトは負傷、フェルミンはどちらかというとトランジションの選手です。

結果、ロドリとペドリに残されたのは、フェルミンかラフィーニャへの縦パスだけ。しかも受け手は完全に背中を向けている。 Casquero氏いわく、「自殺的とまでは言わないが、カミカゼ的なパスだった」。パス自体は通っても、その先に本当の優位がないんです。

ロドリはこの試合で13回ボールを失いました。縦パスが失敗すれば、そのままマドリーのカウンター。 しかもマドリーには、スピードのあるディオマンデと、右から得意の左足で前へボールを送れるギュレルがいました。 Blaya氏は「ギュレルを右に置いたのも当たりだった」と話しています。

■ポイント⑥:カマヴィンガがバルセロナを「壊した」

後半、バルセロナの同点ゴールの後は、マドリーも少し下がりすぎた時間帯がありました。 それでも最後は、Blaya氏いわく「モウリーニョらしいやり方」、つまりトランジションで勝負を決めます。

ラストのカギは、途中出場のカマヴィンガでした。

ガルシアマルティンクバルシカンセロバルデペドリロドリフェルミンゴードンラフィーニャラミンルニン右SBコナテハウセンククレジャカマヴィンガチュアメニギュレルベリンガムエムバペディオマンデカマヴィンガが2列目からエムバペが押し込む

決勝点:ギュレルのスルーパスに、カマヴィンガが2列目から抜け出してエムバペへ

この時間、バルセロナは右にカンセロ、左にバルデ。左サイドではジェラール・マルティンがSBのような位置に引っ張られ、クバルシも動かざるを得ない状況でした。

ギュレルの見事なパスに、フレッシュなカマヴィンガが2列目から飛び出す。 ついていったのは、Blaya氏によるとおそらくバルデ。ただし、遅すぎた。あとは、エムバペが押し込むだけです。

モウリーニョも会見で話していたように、カギは「2列目からの飛び出し」。 バルセロナ相手にスペースを突こうとすると、すぐオフサイドになる。でも、ベリンガムやカマヴィンガのように後ろから出てくれば、捕まえるのはずっと難しい。 先制点と同じく、マドリーは「石油を掘り当てた」パターンを最後にもう一度繰り返したわけです。

ちなみに、カマヴィンガの投入はもともと守備のため、つまり「バルセロナを抑えるための構造と脚」を足す交代と読まれていた、とBlaya氏。 それが最後は攻撃で試合を決めたというのも、面白いところです。

■で、マドリーは「答え」を見つけたのか?

Blaya氏とCasquero氏の結論は、「モウリーニョは、うまくいくマドリーの形を見つけたのかもしれない」というものでした。

ギュレルは、ボランチの前に

中盤の底ではなく、前で、得意の左足でボールを前へ送る役。

ボランチは「似た者同士」にしない

ベルナルドとチュアメニのような、補い合う2人。モウリーニョも会見で「特徴の似た選手は重ねない」と話していました。

バルベルデは右SBの「つなぎ役」

中盤と最終ラインをつなぎ、低い位置から前を向いてゲームを作る。

アトレティコ戦では、チュアメニを中盤の底に置いた「勝つための」プランがうまくいきませんでした。 そこから立て直し、ベルナルドとギュレルを同時に使う勇気を見せて、カンプ・ノウで結果を出した。

Blaya氏は最後に、「シャビ・アロンソも、アルベロアもできなかったことをモウリーニョはやった。テーブルを叩く、大きな一撃だ」とまとめています。 これがリーガでもCLでも続く「型」になるのか。次のラシン戦からが、本当の答え合わせです。

※本記事は、ASのYouTube番組『5 Carriles con Blaya』(Albert Blaya氏、Guillermo Casquero氏)の解説をもとに、ultrasrei.comが独自に図解・再構成したものです。図の選手位置は、番組の戦術ボードをもとにした概略です。番組のボードでは背番号5の選手が「PAREDES」と表示されていますが、解説と各紙の報道に合わせてクバルシとしています。