戦術分析2026年10月14日

ハイプレスは良かったのか、悪かったのか

レアル・マドリード 2-1 インテル — CLリーグフェーズ第1節 図解戦術レビュー

■極端な結論はいったん置いておこう

CLのビッグマッチが終わると、どうしても「プレス最高!」か「守備崩壊!」の二択で語りたくなるもの。 でも点がほとんど入らないこのスポーツでは、真実はたいていその間にあります。

モウリーニョが古巣インテルを迎えたCL初戦がまさにそれ。 マドリーはハイプレスから2点を奪った一方で、インテルにはそのプレスを何度もスルスルと剥がされていました。

今回はThe AthleticのAhmed Walid氏の分析をベースに、「なぜハマったのか」「なぜ剥がされたのか」を図解で検証していきます。 (遅ればせながら、ローマ戦の前に予習・復習ということで)

■両チームのスタメン

レアル・マドリード

4-3-3

インテル

3-5-2

1
クルトワ
17
ククレジャ
4
ハイセン
16
コナテ
24
ダンフリース
5
ベリンガム
8
バルベルデ
12
トレント
7
ヴィニシウス
10
エムバペ
21
ブラヒム
1
マルティネス
95
バストーニ
31
ビセック
28
パヴァール
30
C・アウグスト
21
ジョーンズ
20
チャルハノール
23
バレッラ
17
ディウフ
9
テュラム
10
ラウタロ

※フォーメーションは試合開始時のもの

マドリーは4-3-3。ギュレルとベルナルド・シウバが出場停止、さらに中盤に負傷者が続出という「緊急事態」で、モウリーニョは右SBのトレントを中盤に上げるという荒技に出ました。 中盤はベリンガム、バルベルデ、トレントの3枚。前線はヴィニシウス、エムバペ、ブラヒムで、ディオマンデはベンチスタート。

一方のインテルは、キヴ監督の3-5-2。最終ラインはパヴァール、ビセック、バストーニ。中盤はバレッラ、チャルハノール、カーティス・ジョーンズの3枚で、両WBにディウフとカルロス・アウグスト。2トップはラウタロとテュラムです。

この「3バック+2トップ+WB」のインテルに対して、マドリーがどうやってプレスをハメに行ったのか。ここがこの試合の最大のポイントになります。

■モウリーニョの「ハイブリッド・プレス」

この試合、マドリーのプレスは「ゾーン」と「マンツーマン」のハイブリッドでした。 ポイントはボールがインテルのどちらサイドにあるか、です。

インテルが右サイド(マドリーから見て左)で組み立てる時

トレントとブラヒムは「ゾーン」担当。人に食いつかず、中央を締める。

ボールが左サイド(バストーニ側)に移った瞬間

全員がスイッチを入れて「マンツーマン」でハメに行く。

【フェーズ①:右サイドではゾーンで中央を消す】

まずは基本形。バルベルデ、ヴィニシウス、ベリンガムがそれぞれバレッラ、パヴァール、チャルハノールをマンマーク。 トレントはカーティス・ジョーンズを「視界に入れておく」程度、ブラヒムは内側に絞ったポジションを取っています。

J・マルティネスパヴァールビセックバストーニバレッラチャルハノールジョーンズディウフC・アウグストエムバペヴィニシウスバルベルデベリンガムブラヒムトレントゾーンで中央を管理

フェーズ①:ボールはインテルの右側。トレントとブラヒムはゾーンで中央を締める

エムバペがビセックに寄せてプレス開始。ビセックはたまらずGKのジョゼップ・マルティネスに戻し、組み立ては左サイドへ。

【フェーズ②:バストーニに出た瞬間、マンツーマンのスイッチON】

インテルが左から組み立てられる態勢になると、ブラヒムが数歩前へ。 同時にコナテもマンツーマン開始を見越して、ラウタロにピタッと付きます。

ジョーンズがGKに下げ、GKがワイドのバストーニへ。ここがトリガーです。

J・マルティネスビセックバストーニC・アウグストジョーンズラウタロエムバペブラヒムダンフリーストレントコナテトリガー

フェーズ②:GK→バストーニがトリガー。ブラヒムが寄せ、ダンフリースはアウグストへ、エムバペはバックパスを狙う

ブラヒムが左CBのバストーニに襲いかかり、ダンフリースはカルロス・アウグストまで一気に前進。 エムバペはビセックをマークしつつ、バックパスをかっさらえる位置。残りの選手もそれぞれのマーカーのそばにいます。

追い詰められたバストーニはアウグストへ逃がすしかなく、アウグストの苦し紛れのロングボールはハイセンがヘッドで跳ね返して終了。 はい、お手本どおりのハメ技です。

■2ゴールはどちらも「プレスの産物」

この仕組みが、マドリーの2ゴールをそのまま生みました。 インテル側のミスも「避けられたミス」ではあるんですが、ミスを誘発する配置になっていたのは間違いありません。

【先制点:トレントの圧力→連続ミス→ブラヒムからエムバペ】

ジョーンズがボールを右サイド方向へ運んでいたので、トレントとブラヒムはゾーンの役割。 ククレジャ、ベリンガム、バルベルデ、ハイセンはそれぞれディウフ、チャルハノール、テュラム、バレッラをマーク(バルベルデとハイセンは、バレッラの立ち位置の関係でマーカーを入れ替えていた)。

ビセックジョーンズチャルハノールバレッラディウフテュラムトレントブラヒムベリンガムバルベルデハイセンククレジャエムバペミス×2

先制点:前を向けないジョーンズにトレントが圧力。ミスが連鎖し、内側に絞っていたブラヒムが回収

前方のパスコースを全部消されたジョーンズに、トレントがプレッシャー。 ジョーンズのミスに続いてビセックまでミスを重ね、内側に絞っていたブラヒムがこれを回収。 そのままエムバペを裏へ走らせて1-0。

ブラヒムが「狭く」立っていたことが全て。サイドに開いてバストーニを見ていたら、このボールは拾えていません。 ゾーン担当の選手が「どこに立つか」が、そのまま得点につながった場面です。

【2点目:バルベルデの「賭け」とGKへの追い込み】

2点目もプレスから。ヴィニシウス、バルベルデ、ベリンガムがビセック、バレッラ、チャルハノールをマークし、エムバペはGKにプレス。

GKマルティネスがワイドのパヴァールへ、パヴァールがバストーニへ。これでマンツーマンのスイッチON。 ブラヒムはバストーニへダッシュ、ダンフリースはアウグストへ前進。 そしてバルベルデは「バレッラへのパスなら自分のスピードでカットできる」と賭けに出ます。

J・マルティネスパヴァールビセックバストーニバレッラチャルハノールC・アウグストバルベルデヴィニシウスベリンガムブラヒムエムバペダンフリースコース遮断

2点目:GKに戻された瞬間、バルベルデがバレッラへのコースを切りながらGKへ。逃げ場ゼロ

インテルはまたGKに戻しますが、バルベルデはバレッラへのパスコースを消しながらGKへ一直線。 マンツーマンで全員が捕まっているので、マルティネスの視界には出しどころが一つもない。 パニックになったところをバルベルデがかっさらって、そのまま流し込みました。

試合後、モウリーニョはこう語っています。 「バルベルデのゴールは偶然ではない。我々が用意した構造と戦略を、素晴らしく解釈した結果だ」

さらにこのプレスと強度は、47分のベリンガム、67分のエムバペの決定機も生みました。 ここまで読むと「プレス大成功じゃん!」なんですが……問題はここからです。

■ところが、何度もスルスル剥がされる

このシステム、インテルの流動的なビルドアップに何度も苦しめられていました。 原因は大きく分けて3つ。

【失敗例①:トレントの判断ミスでジョーンズがフリー】

ボールがインテルの右側にある時、トレントとブラヒムはジョーンズとバストーニに食いつかない。ここまではルールどおり。

ところがボールが左へ回った瞬間、ダンフリースはアウグストから遠く離れたまま。 しかもトレントはGKマルティネスへのパスコースを切りに行ってしまい、ジョーンズを完全にフリーにしてしまいます。

J・マルティネスバストーニジョーンズC・アウグストラウタロトレントブラヒムダンフリースコナテフリー

失敗例①:本来はマンツーマンの局面なのに、トレントがコース切りを選択。ジョーンズが完全にフリー

コナテがセンターFWにピタッと付いていることからも分かるとおり、この局面は本来マンツーマンのはず。 トレントだけ別のルールでプレーしてしまったわけです。 バストーニは空いたジョーンズに楽々つなぎ、インテルは簡単に前進。

トレントの中盤起用は、そもそも中盤に5人の欠場者が出た「緊急事態」の産物。 ゾーンとマンツーマンを状況で切り替える複雑な仕組みを、本職ではない選手に任せたリスクが出た場面と言えます。

【失敗例②:エムバペがマークを受け渡さない】

次は前線。ベリンガムはチャルハノールをマーク、エムバペはGKに寄せながらビセックへのパスコースを消している。マドリーの左サイドもそれぞれの相手に寄せていく。

ところがボールがディウフに渡ると、エムバペはもうビセックへのコースを消せていない。 ここはエムバペがベリンガムとマークを入れ替えるべき場面……なのですが、フランス代表キャプテンは足を止めてしまいます。

J・マルティネスディウフビセックチャルハノールエムバペベリンガムククレジャ停止1対2

失敗例②:エムバペが止まり、ベリンガムはチャルハノールとビセックの1対2。ディウフからライン間のビセックへ

ベリンガムはチャルハノールを見ながら迷っている。そりゃそうです、1人で2人を見ろと言われているようなもの。 エムバペのミスでベリンガムはビセックを捕まえられず、ディウフはライン間のビセックへ悠々とパス。

【失敗例③:単純に「遅い」】

一番やっかいなのがこれ。マンツーマンを始める準備がちゃんとできているのに、単純に寄せが遅い。

バストーニがワイドのアウグストへ。ダンフリースはちゃんとWBに寄せる。ところがトレントはマーカーのジョーンズから遠い。 続いてコナテもラウタロ・マルティネスにタイトに付けておらず(GKのマルティネスとややこしい!)、インテルにブロックの中を通され、バルベルデは持ち場を離れられなくなります。

問題は、そのバルベルデのマーカーだったペタル・スチッチが前へ飛び出していること。 ククレジャがスチッチを拾うしかなく、結果、タッチライン際のディウフがドフリー。

ジョーンズラウタロスチッチディウフC・アウグストトレントコナテバルベルデククレジャダンフリースドフリー

失敗例③:寄せが一歩ずつ遅れ、スチッチの飛び出しにククレジャが釣られる。逆サイドのディウフがドフリー

目の前でこれが起きているのを見ていたジョーンズは、迷わずディウフへサイドチェンジ。 インテルは汗ひとつかかずにマドリーのペナルティエリアまで到達しました。

マンツーマンは「全員が同時に、同じ強度で」行かないと成立しない守備。 1人の一歩の遅れがドミノ倒しのように連鎖して、最後は一番遠いサイドの選手がフリーになる。 AS紙も「ジョーンズに何度も穴を突かれた」と書いていましたが、その正体がこれです。

■で、プレスは成功だったの?失敗だったの?

ビルドアップを止められなかったことで、キヴ監督のインテルはベルナベウで堂々とマドリー陣内でプレーし、多くのチャンスを作りました。 クルトワの6つのビッグセーブがなければ、結果は違っていたかもしれません。

一方で、プレスは4つの決定機を生み、そのうち2つを得点に。相手陣内でのボール奪取は11回で、スタッフが特に評価した数字でもあります。

◎ 良かった点

トリガー(バストーニへのパス)を全員が共有し、ハマった時の破壊力は抜群。「どこで・誰が・誰に」行くかという事前プランが、2ゴールに直結した。

× 悪かった点

ゾーン⇔マンツーマンの切り替えで、判断ミス(トレント)、受け渡しミス(エムバペ)、単純な遅れ(トレント、コナテ)が連発。1人のズレが全体の崩壊につながる。

うまくハマったプレスの場面は「進歩」を示し、ボールを持たれた時の脆い構造は「いつもの問題」を示している。 真実は、やっぱりその間にあります。

その後のアトレティコ戦、ビジャレアル戦でも、マドリーは守備の安定に苦しみ続けています。 ローマ戦でこのハイブリッド・プレスがどこまで整理されているのか——そこが最大の見どころになりそうです。

※本記事は、The AthleticのAhmed Walid氏の分析記事「Why Real Madrid’s pressing against Inter was good… and bad」とAS紙の報道を参考に、ultrasrei.comが独自に図解・再構成したものです。図の選手位置は概略です。