ハイプレスは良かったのか、悪かったのか
レアル・マドリード 2-1 インテル — CLリーグフェーズ第1節 図解戦術レビュー
■極端な結論はいったん置いておこう
CLのビッグマッチが終わると、どうしても「プレス最高!」か「守備崩壊!」の二択で語りたくなるもの。 でも点がほとんど入らないこのスポーツでは、真実はたいていその間にあります。
モウリーニョが古巣インテルを迎えたCL初戦がまさにそれ。 マドリーはハイプレスから2点を奪った一方で、インテルにはそのプレスを何度もスルスルと剥がされていました。
今回はThe AthleticのAhmed Walid氏の分析をベースに、「なぜハマったのか」「なぜ剥がされたのか」を図解で検証していきます。 (遅ればせながら、ローマ戦の前に予習・復習ということで)
■両チームのスタメン
レアル・マドリード
4-3-3
インテル
3-5-2
※フォーメーションは試合開始時のもの
マドリーは4-3-3。ギュレルとベルナルド・シウバが出場停止、さらに中盤に負傷者が続出という「緊急事態」で、モウリーニョは右SBのトレントを中盤に上げるという荒技に出ました。 中盤はベリンガム、バルベルデ、トレントの3枚。前線はヴィニシウス、エムバペ、ブラヒムで、ディオマンデはベンチスタート。
一方のインテルは、キヴ監督の3-5-2。最終ラインはパヴァール、ビセック、バストーニ。中盤はバレッラ、チャルハノール、カーティス・ジョーンズの3枚で、両WBにディウフとカルロス・アウグスト。2トップはラウタロとテュラムです。
この「3バック+2トップ+WB」のインテルに対して、マドリーがどうやってプレスをハメに行ったのか。ここがこの試合の最大のポイントになります。
■モウリーニョの「ハイブリッド・プレス」
この試合、マドリーのプレスは「ゾーン」と「マンツーマン」のハイブリッドでした。 ポイントはボールがインテルのどちらサイドにあるか、です。
インテルが右サイド(マドリーから見て左)で組み立てる時
トレントとブラヒムは「ゾーン」担当。人に食いつかず、中央を締める。
ボールが左サイド(バストーニ側)に移った瞬間
全員がスイッチを入れて「マンツーマン」でハメに行く。
【フェーズ①:右サイドではゾーンで中央を消す】
まずは基本形。バルベルデ、ヴィニシウス、ベリンガムがそれぞれバレッラ、パヴァール、チャルハノールをマンマーク。 トレントはカーティス・ジョーンズを「視界に入れておく」程度、ブラヒムは内側に絞ったポジションを取っています。
フェーズ①:ボールはインテルの右側。トレントとブラヒムはゾーンで中央を締める
エムバペがビセックに寄せてプレス開始。ビセックはたまらずGKのジョゼップ・マルティネスに戻し、組み立ては左サイドへ。
【フェーズ②:バストーニに出た瞬間、マンツーマンのスイッチON】
インテルが左から組み立てられる態勢になると、ブラヒムが数歩前へ。 同時にコナテもマンツーマン開始を見越して、ラウタロにピタッと付きます。
ジョーンズがGKに下げ、GKがワイドのバストーニへ。ここがトリガーです。
フェーズ②:GK→バストーニがトリガー。ブラヒムが寄せ、ダンフリースはアウグストへ、エムバペはバックパスを狙う
ブラヒムが左CBのバストーニに襲いかかり、ダンフリースはカルロス・アウグストまで一気に前進。 エムバペはビセックをマークしつつ、バックパスをかっさらえる位置。残りの選手もそれぞれのマーカーのそばにいます。
追い詰められたバストーニはアウグストへ逃がすしかなく、アウグストの苦し紛れのロングボールはハイセンがヘッドで跳ね返して終了。 はい、お手本どおりのハメ技です。
■2ゴールはどちらも「プレスの産物」
この仕組みが、マドリーの2ゴールをそのまま生みました。 インテル側のミスも「避けられたミス」ではあるんですが、ミスを誘発する配置になっていたのは間違いありません。
【先制点:トレントの圧力→連続ミス→ブラヒムからエムバペ】
ジョーンズがボールを右サイド方向へ運んでいたので、トレントとブラヒムはゾーンの役割。 ククレジャ、ベリンガム、バルベルデ、ハイセンはそれぞれディウフ、チャルハノール、テュラム、バレッラをマーク(バルベルデとハイセンは、バレッラの立ち位置の関係でマーカーを入れ替えていた)。
先制点:前を向けないジョーンズにトレントが圧力。ミスが連鎖し、内側に絞っていたブラヒムが回収
前方のパスコースを全部消されたジョーンズに、トレントがプレッシャー。 ジョーンズのミスに続いてビセックまでミスを重ね、内側に絞っていたブラヒムがこれを回収。 そのままエムバペを裏へ走らせて1-0。
【2点目:バルベルデの「賭け」とGKへの追い込み】
2点目もプレスから。ヴィニシウス、バルベルデ、ベリンガムがビセック、バレッラ、チャルハノールをマークし、エムバペはGKにプレス。
GKマルティネスがワイドのパヴァールへ、パヴァールがバストーニへ。これでマンツーマンのスイッチON。 ブラヒムはバストーニへダッシュ、ダンフリースはアウグストへ前進。 そしてバルベルデは「バレッラへのパスなら自分のスピードでカットできる」と賭けに出ます。
2点目:GKに戻された瞬間、バルベルデがバレッラへのコースを切りながらGKへ。逃げ場ゼロ
インテルはまたGKに戻しますが、バルベルデはバレッラへのパスコースを消しながらGKへ一直線。 マンツーマンで全員が捕まっているので、マルティネスの視界には出しどころが一つもない。 パニックになったところをバルベルデがかっさらって、そのまま流し込みました。
さらにこのプレスと強度は、47分のベリンガム、67分のエムバペの決定機も生みました。 ここまで読むと「プレス大成功じゃん!」なんですが……問題はここからです。
■ところが、何度もスルスル剥がされる
このシステム、インテルの流動的なビルドアップに何度も苦しめられていました。 原因は大きく分けて3つ。
【失敗例①:トレントの判断ミスでジョーンズがフリー】
ボールがインテルの右側にある時、トレントとブラヒムはジョーンズとバストーニに食いつかない。ここまではルールどおり。
ところがボールが左へ回った瞬間、ダンフリースはアウグストから遠く離れたまま。 しかもトレントはGKマルティネスへのパスコースを切りに行ってしまい、ジョーンズを完全にフリーにしてしまいます。
失敗例①:本来はマンツーマンの局面なのに、トレントがコース切りを選択。ジョーンズが完全にフリー
コナテがセンターFWにピタッと付いていることからも分かるとおり、この局面は本来マンツーマンのはず。 トレントだけ別のルールでプレーしてしまったわけです。 バストーニは空いたジョーンズに楽々つなぎ、インテルは簡単に前進。
【失敗例②:エムバペがマークを受け渡さない】
次は前線。ベリンガムはチャルハノールをマーク、エムバペはGKに寄せながらビセックへのパスコースを消している。マドリーの左サイドもそれぞれの相手に寄せていく。
ところがボールがディウフに渡ると、エムバペはもうビセックへのコースを消せていない。 ここはエムバペがベリンガムとマークを入れ替えるべき場面……なのですが、フランス代表キャプテンは足を止めてしまいます。
失敗例②:エムバペが止まり、ベリンガムはチャルハノールとビセックの1対2。ディウフからライン間のビセックへ
ベリンガムはチャルハノールを見ながら迷っている。そりゃそうです、1人で2人を見ろと言われているようなもの。 エムバペのミスでベリンガムはビセックを捕まえられず、ディウフはライン間のビセックへ悠々とパス。
【失敗例③:単純に「遅い」】
一番やっかいなのがこれ。マンツーマンを始める準備がちゃんとできているのに、単純に寄せが遅い。
バストーニがワイドのアウグストへ。ダンフリースはちゃんとWBに寄せる。ところがトレントはマーカーのジョーンズから遠い。 続いてコナテもラウタロ・マルティネスにタイトに付けておらず(GKのマルティネスとややこしい!)、インテルにブロックの中を通され、バルベルデは持ち場を離れられなくなります。
問題は、そのバルベルデのマーカーだったペタル・スチッチが前へ飛び出していること。 ククレジャがスチッチを拾うしかなく、結果、タッチライン際のディウフがドフリー。
失敗例③:寄せが一歩ずつ遅れ、スチッチの飛び出しにククレジャが釣られる。逆サイドのディウフがドフリー
目の前でこれが起きているのを見ていたジョーンズは、迷わずディウフへサイドチェンジ。 インテルは汗ひとつかかずにマドリーのペナルティエリアまで到達しました。
■で、プレスは成功だったの?失敗だったの?
ビルドアップを止められなかったことで、キヴ監督のインテルはベルナベウで堂々とマドリー陣内でプレーし、多くのチャンスを作りました。 クルトワの6つのビッグセーブがなければ、結果は違っていたかもしれません。
一方で、プレスは4つの決定機を生み、そのうち2つを得点に。相手陣内でのボール奪取は11回で、スタッフが特に評価した数字でもあります。
◎ 良かった点
トリガー(バストーニへのパス)を全員が共有し、ハマった時の破壊力は抜群。「どこで・誰が・誰に」行くかという事前プランが、2ゴールに直結した。
× 悪かった点
ゾーン⇔マンツーマンの切り替えで、判断ミス(トレント)、受け渡しミス(エムバペ)、単純な遅れ(トレント、コナテ)が連発。1人のズレが全体の崩壊につながる。
うまくハマったプレスの場面は「進歩」を示し、ボールを持たれた時の脆い構造は「いつもの問題」を示している。 真実は、やっぱりその間にあります。
その後のアトレティコ戦、ビジャレアル戦でも、マドリーは守備の安定に苦しみ続けています。 ローマ戦でこのハイブリッド・プレスがどこまで整理されているのか——そこが最大の見どころになりそうです。