1970年代 | 革命の哲学
クライフとトータルフットボール——現代サッカー全ての源流
ペップ・グアルディオラのパスサッカー、クロップのプレッシング、アンチェロッティの柔軟な戦術——現代の名将たちが実践するサッカーは、すべて1人の男の思想に辿り着く。ヨハン・クライフ。彼が1970年代に提唱したトータルフットボールは、半世紀を経た今も現代サッカーの根幹をなしている。
トータルフットボールとは何か
トータルフットボールとは、フィールド上のすべての選手がすべてのポジションをこなせる、流動的なシステムだ。FWが守備に下がれば、MFが最前線に上がる。CBが攻め上がれば、MFがカバーに入る。ポジションは固定されておらず、常にチームとして最適な配置を維持し続ける。
この概念の革命性は、「役割の固定化を否定した」点にある。それまでのサッカーでは「センターフォワードはゴールを決める役割」「DFは守る役割」と明確に分業されていた。クライフはその常識を根底から覆した。「すべての選手が攻撃でき、すべての選手が守備できる」チームこそが最強だと主張した。
1974年W杯——世界が見た哲学の具現化
1974年西ドイツW杯、オランダ代表はトータルフットボールを世界の舞台で披露した。クライフを中心としたオランダは、前評判通りの圧倒的なサッカーで決勝まで駒を進めた。
しかし決勝でオランダは西ドイツに2-1で敗れた。それでもこの大会でオランダが見せたサッカーは「史上最も美しいサッカー」として語り継がれている。結果よりも哲学が記憶に残るチーム——これもまたクライフらしい。
バルセロナへの遺産——ラ・マシアと「クライフ哲学」
クライフの影響は選手としてだけでなく、監督・指導者として最大の形で残された。1988年から1996年にバルセロナの監督を務めたクライフは、「ドリーム・チーム」と呼ばれた黄金時代を築き、CLタイトルもクラブに初めてもたらした。
そして何より重要なのは、育成組織「ラ・マシア」にトータルフットボールの哲学を植え付けたことだ。ここから育ったグアルディオラ、シャビ、イニエスタ、プジョル、バルデスらは全員、クライフ哲学の体現者だ。そしてグアルディオラが監督としてバルセロナやマンチェスター・シティで実践するサッカーもまた、クライフの直系の子孫と言える。
ヨハン・クライフは2016年に肺がんで亡くなった。しかし彼の哲学は、世界中のサッカーコーチが毎週末のトレーニングで教え込んでいる。最も偉大な遺産とは、死後も生き続けるものだ。