戦術分析2026年8月13日 13:31
クロース不在の亡霊——デポルティーボ戦に見るモウリーニョ・マドリーのビルドアップ問題
テレサ・エレーラ杯 デポルティーボ対マドリー 戦術レビュー
ア・コルーニャのリアソールで行われたテレサ・エレーラ杯でのデポルティーボ対マドリーは、ブラヒム・ディアスの個人技によるゴール1点を守り切ったマドリーが0-1で勝利した。しかし内容は、エムバペ・ベリンガム・ククレジャらを欠くという事情を差し引いても、課題が山積した90分だった。複数のスペイン紙の記事を元に、戦術的な視点でこの試合を振り返る。
■ 両チームの基本配置
マドリーは4-2-3-1。GKルニン、右SBダンフリース、CBはリュディガーとハイセン、左SBカレーラス。ダブル・ピボーテにベルナルド・シウバとカマヴィンガ、右ウイングにブラヒム、トップ下にギュレル、左ウイングにヴィニシウス、1トップはエンドリッキという布陣。バルベルデはベンチスタートだった。
デポルティーボは4-4-2のミドルブロックを採用。センターハーフのソリアーノとアマトゥッチが中盤の心臓部として機能し、マドリーの縦パスコースを消しながらサイドへ誘い込む形を徹底した。
■ ビルドアップの機能不全
最大の問題は、マドリーのビルドアップだった。
ベルナルド・シウバとカマヴィンガのダブル・ピボーテには、引いた相手を崩すためのオーガナイザーとしての機能が欠けている。ベルナルドはトップ下・インサイドハーフ・偽ウイング的な選手であり、カマヴィンガは縦への推進力はあるものの組み立ての中心には向かない。エル・パイスが「ダブル・ピボーテにベルナルドとカマヴィンガを使う選択は、引いた相手の打開に繋がらなかった」と指摘した通りだ。
従来マドリーのビルドアップを支えていたトニ・クロースは2024年夏に引退し、ルカ・モドリッチも退団。今夏、後継として最右翼だったロドリの獲得にも失敗した。このポジションにおける空白は、デポルティーボ相手でさえ露呈する深刻な構造問題だ。
具体的な現象として、マドリーのCB2枚は常にパスコースを探し続けた。ダブル・ピボーテの2人がCBのすぐ前方に密集するため、デポルティーボは「中央を消し、サイドのコースだけを空ける」選択が可能だった。結果、マドリーのボールは横に流れ続け、縦に割れないまま時間だけが過ぎていった。
■ モウリーニョのブラヒムへの指令
興味深い点として、モウリーニョはブラヒムに「インサイドに入ってもう一人のセンターハーフとして機能せよ」と指示していた。本人も試合後に「インサイドに入り込んでビルドアップを助けるよう言われていた。その役割を果たせて嬉しい」と語っている。ウイングとしての突破力を封印し、中盤の厚みを補う試みだった。
しかしデポルティーボの4-4-2ブロックはこの変則配置にも対応。ブラヒムが内に絞ることで右サイドのスペースは生まれるが、ダンフリースが高い位置を取るための連動が生まれなかった。ヴィニシウスも左サイドで単独の仕掛けを繰り返したが、W杯後の疲労もあり、2023-24シーズンの爆発的なスピードは影を潜めた。
■ 唯一の得点:アクシデントとインスピレーションの産物
前半アディショナルタイム。デポルティーボがコーナーキックからヘディングでルニンを脅かした瞬間、マドリーの得点が生まれた。ルニンがシュートをブロックし、そのまま手で50m超のロングスローを前線へ投じる。ブラヒムが胸でトラップし、膝でコントロールし、右足でフィニッシュ。デポルティーボの守備が大きく押し上がった瞬間を突いたカウンターの産物だった。
この得点は戦術的な積み上げから生まれたものではなく、ルニンの瞬時の判断とブラヒムの個人的な技術の結晶だった。裏を返せば、90分を通じてマドリーがビルドアップから相手守備を崩したシーンはほぼゼロだったという事実でもある。
■ 後半の修正:トリプルボランチの試み
ハーフタイムに複数の選手交代を行ったモウリーニョは、後半の配置を大きく変えた。バルベルデが出場し、カマヴィンガ・ベルナルド・シウバと合わせてトリプルボランチ(trivote)を形成。右SBにトレントが入りダンフリースを1列前に押し出し、前線はエスピを起用してターゲットとした。
このトリプルボランチは一定の効果を見せた。中盤の人数が増えることでボールの循環が改善し、デポルティーボがブロックをスライドする時間を奪えるようになった。エスピもデポルティーボ守備陣を苦しめる場面があったが、惜しくもオフサイドで幻のゴールに終わった。
しかし後半もマドリーは崩し切れず、試合終盤はデポルティーボに押し込まれる展開に。ルニンの2連続ビッグセーブがなければ、勝ち点3は危うかった。
■ 課題と展望
今試合で浮かび上がった課題は明確だ。
【オーガナイザー不在】引いた相手を崩すための司令塔がいない。ベルナルド・シウバをトップ下に置く4-2-3-1の方が本人の特性を活かせる可能性がある。6番タイプの補強か、バルベルデをより低い位置で固定する運用が求められる。
【前半主導→後半失速のパターン】プレシーズン3試合で共通して見られる傾向だ。フィットネスの問題か、戦術的な設計の問題か、開幕前に修正が必要だ。
【ヴィニシウスのコンディション】W杯後の疲労と調整不足が見て取れる。本来の破壊力が戻るまで、左サイドの推進力は期待しにくい。
一方でモウリーニョが「来週から本番」と発言した通り、エムバペ・ベリンガム・ディオマンデ・ククレジャが合流すれば戦力は大きく変わる。特にベリンガムのトップ下起用により、ダブル・ピボーテの一角にバルベルデやカマヴィンガを固定しやすくなり、ビルドアップの問題も改善される可能性がある。
リーガ開幕は8月22日、アウェーでのエスパニョール戦。満月が訪れるまで、狼はバルデベバスで爪を研ぎ続ける。
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