レアル・マドリードのベリンガムも、ロドリも──ラ・リーガを席巻する「読唇術」番組
英国スポーツメディア『The Athletic』が、スペインサッカー独特の文化となっている「読唇術」を取り上げた。テレビ番組が選手の口の動きを読み解いて会話を明らかにし、ロドリの謝罪やベリンガムの出場停止にまでつながってきたという。
✅ ロドリの「ひどすぎる」発言
ロドリは9月9日、バルサでのCLデビュー戦となったフェイエノールト戦(5-1)の後、取材に応じる前に「言いたいことがある」と切り出した。 その3日前、リーガのバレンシア戦(0-5)で、ロドリはマンチェスター・シティから最大7650万ユーロで加入後初めて先発し、約1時間で交代していた。 翌日放送された映像で、ベンチに下がったロドリが19歳のパウ・クバルシにこう話していたことが明らかになった。 「あいつら、本当にひどい。後半はハーフウェーラインすら越えてこない。本当に弱い。バレンシアって昨季何位だった?」
✅ 番組「El Día Después」
この映像を流したのは、スペインで絶大な人気を誇るテレビ番組「El Día Después」。1990年代にCanal+で始まり、今はMovistar+で放送されている。 特に評価が高いのが、生中継では見逃された場面や面白い瞬間を紹介するコーナー「Lo que el ojo no ve」だ。2019年にアトレティコからシティに移ったロドリは、イングランドとスペインのこの文化の違いを忘れていたのかもしれない。 番組には、試合日ごとに待機する専属の記者チームがいて、彼らは読唇の専門家にもなっている。9月20日のマドリードダービーでも、ベリンガム、クリスティアン・ロメロ、ジュリアーノ・シメオネの間で交わされた言葉をカメラが捉えていた。
✅ 謝罪、そして監督解任へ
ロドリの映像は大騒ぎになり、ロドリはバレンシアの主将ホセ・ルイス・ガヤに電話で謝罪。フェイエノールト戦の後には公の場でも謝った。 「人生では、間違えたら謝らなければならない。今の僕がそうだ。僕の言葉で気分を害した選手やファンのみなさんに謝りたい。からかうつもりはまったくなかった。バレンシアが、本来いるべき場所、この国で最高のクラブの一つに戻ることを願っている」 話はそこで終わらなかった。9月13日、バレンシアはカルロス・コルベラン監督とロン・ゴーリーCEOを解任した。地元メディアによると、ロドリの言葉が、ピーター・リム氏がオーナーを務めるクラブの決断の大きな要因になったという。
✅ ベリンガムの「F*** off」か「F*** you」か
読唇術の重要性を示すもう一つの例が、昨年2月のオサスナ戦でベリンガムが退場になった件だ。 ホセ・ルイス・ムヌエラ・モンテロ主審は試合報告書に、ベリンガムが自分に「F*** you」と言ったため退場にしたと記した。 当時マドリーを率いていたアンチェロッティ監督は、誤解があったと説明。ベリンガムが言ったのは、主審に向けた言葉ではなく、判定への戸惑いから出た「F*** off」だったと主張した。ベリンガム本人も「自分に向けた言葉で、主審に向けたものではない。侮辱ではまったくない」と話した。 しかし「El Día Después」の読唇では「F*** you」となっており、スペインサッカー連盟の懲戒委員会も主審の報告書(と番組)の内容を正しいと認めた。マドリーの異議申し立ても退けられ、ベリンガムは2試合の出場停止となった。
✅ 「何より正確であること」
こうしたコンテンツは、リーガの毎節後に欠かせないものになっている。「El Día Después」が先駆けだが、2022-23シーズンから始まったDAZNの中継にも同様の要素がある。 番組の編集長フェル・バレロ氏は「30年以上放送が続いていること以上の評価はないと思う」と話す。 「スタッフは読唇術を学んだわけではなく、ほとんどが記者だ。でもこれは身につけられる技術。時間をかけて映像をスローにし、選手が何を言っているかを研究する。出身地、文脈、自分がその立場なら何と言うかまで考える。何より大事なのは正確であること。外部の意見を聞くこともあるし、確信が持てずに放送を見送ったことも何度もある」
✅ 「サッカーの秘密をファンに」
番組を立ち上げたのは、AS紙の元編集長アルフレド・レラーニョ氏だ。 「サッカーをファンに近づけ、サッカーの秘密を伝えるのが狙いだった。中継スタッフとは別に、特定の人物だけを撮るカメラマンを送り込んだ。選手でも監督でも、ファンでもいい。彼らを通じて物語を伝えたかった。選手の言葉を完全に知るために、読唇の専門会社に相談したこともある」 今ではMovistarに、毎週末すべてのリーガの試合で会話を読み解く専門チームがあり、マドリーとバルサの試合では人数が倍になるという。
✅ 選手たちは口を覆う
選手たちもそれを知っている。あるバルサの選手は匿名でこう話す。 「ピッチにいるとき、こういうことがあるのはわかっている。実はみんな番組は結構好きなんだ。論争ばかりじゃなく、楽しい話や面白い話も多いから。でもだから、ベンチで内緒話をするときは、みんな口を覆っている」 バルサのスタッフも「プレミアリーグから来たロドリは、たぶんそれを忘れていたんだろう。バレンシアの映像に悪意はなかったが、ここではそういうことが起こりうる」と話している。
