レアル・マドリードのヴィニシウス退場は妥当だったのか──スポーツ法の専門家が指摘「髪を引っ張った事実だけで、過剰な力と判断できるのか」
スペイン紙『El País』に、スポーツ法の専門家3人が、ヴィニシウスの退場について競技規則の解釈の観点から論じた寄稿を掲載した。 ヴィニシウスがサリバの髪を引っ張ったことに疑いの余地はない。問題は、その行為があったことを確認するだけでレッドカードを正当化できるのか、それとも、どのように、どれほどの強さで、どんな状況で起きたのかも評価する必要があるのか、という点だという。
✅ 「事実の確認」と「規則上の判断」は別物
3人は、法的な解釈の観点から、この違いは決して小さくないと指摘する。 事実を確認することと、それを規則上どう判断するかは別の作業で、その間には解釈の余地がある。最初の作業の結果が明白だからといって、その余地が消えるわけではない。 つまり、髪をつかんだこと自体は事実として見て取れるが、それが「軽い」ものか「過剰な力」によるものかを判断するには、解釈が必要だということだ。
✅ 競技規則第12条は「過剰な力」を要求
IFABの競技規則第12条は、乱暴な行為について「競技者がボールを争っていないときに、相手競技者に対して過剰な力や残忍さを用いる、または用いようとした場合」に退場とすると定めている。 また、CTA(審判技術委員会)の解釈基準も、「行為の強さ、動作、当たった部位、用いた力、相手の身体に与えたリスクといった要素を評価する必要がある」と認めている。 さらに第12条は、髪を引っ張るのと似た他の行為について、「用いた力がごくわずかでない限り、乱暴な行為とみなされる」とも定めている。 したがって、評価は難しいものの、レッドカードに値するには、不正な身体接触があるだけでは足りず、広い意味での暴力があるだけでも足りない。過剰な力を用いるか用いようとするか、残忍さに訴える必要がある。だからこそ、行為そのもの(疑いはない)とその強さ、行為の存在とその重大さを区別しなければならない、と3人は主張する。
✅ サリバは倒れず、抗議もしなかった
ヴィニシウスのケースでは、髪を引っ張ったことに議論の余地はない。では、何をもって「過剰な力や残忍さ」で行われたと言えるのか。 映像では、サリバが髪を引っ張られて倒れたり、プレーを続けられなくなったりした様子は見られない。本来、そうした結果こそ、接触の性質と強さを評価するうえで考慮されるべきものだ。 実際、サリバは何事もなくプレーを続け、そのプレーがヴィニシウス自身のゴールにつながった場面でも、抗議もファウルの要求も、確認の要求もしなかった。 何度も映像を見返せるVORルームでは、髪をつかんだかどうかだけでなく、その動作の性質、強さ、相手選手や試合への影響も検証すべきだった。それを「過剰な力や残忍さ」と判断したのは疑問だ。主審がモニターで確認したうえで同じ結論に達したことも疑問だと、3人は指摘する。
✅ オフサイドとは違う
この種の場面は、オフサイドのような判定とは根本的に違うと3人は言う。 オフサイドでは、テクノロジーによって選手の位置を非常に正確に特定でき、反則の決定的な要素についての不確実性を減らすことができる。 一方、ある接触が「過剰な力や残忍さ」を伴う行為かどうかを判断する場面では、客観的で反論の余地のない答えを出せる同等のツールは存在しない。その動作が規則の求める基準を超えているかどうかを判定する装置は、「まだ」ない。その評価は審判の判断に委ねられたままだ。 だからこそ、事実の確認とその判断を混同しないことが重要になる。VARは何が起きたかについての疑問を晴らすことはできても、規則の解釈に伴う裁量をなくすことはできない。
✅ 「防御的な」解釈の問題
この一件は、より一般的な問題を浮き彫りにしているという。それは、規則を「防御的に」解釈する傾向だ。 行為の客観的な要素に決定的な重みを置き、判断に関わるべき他の基準を後回しにする。たとえそのほうが議論を呼ぶ評価になるとしてもだ。 この防御的なやり方には、不確実性を減らし、判定を簡単に正当化できるという目先の利点がある。髪を引っ張るのが映像で見えれば、退場は反論の余地のない事実に裏付けられているように見える。 しかし、事実が明白だからといって、その判断が正しいとは限らない。
✅ 「髪を引っ張れば即退場」なら、そう明記すべき
CTAが、乱暴な行為には過剰な力や残忍さが必要だと考えているなら、行為の物理的な要素が客観的に確認できるたびに、それらの要件を省いていい飾りのように扱うことはできない。 「どんな髪の引っ張りでも、強さや状況に関係なく自動的にレッドカードに値するなら、重さを段階づける判断基準は何のためにあるのか。髪をつかむ行為はすべて退場が義務となる反則だと、はっきり定めるほうが一貫しているのではないか」と3人は問いかける。 VARとディアス・デ・メラ主審がどんな論理をたどったのかは、具体的な判定理由(審判報告書には記載されていない)が分からない以上、確かなことは言えない。 それでも、この結果は正当な疑問を投げかけている。乱暴な行為の定義に含まれるすべての要素が評価されたのか、それとも、髪を引っ張ったという事実だけで十分とされたのか、という疑問だ。
※本記事は、El PaísのJosé Luis Pérez Triviño氏、Francisco Javier López Frías氏、Rafael Valencia Candalija氏(いずれもスポーツ法の専門家・大学教授)による寄稿(意見記事)の内容を紹介したものです。
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