ネグレイラ事件、刑法専門の弁護士が解説「UEFAは過小評価されている本当の脅威」──レアル・マドリードの戦略とは
スペイン紙『MARCA』が、刑法を専門とする弁護士セサル・ラヘ氏にインタビューし、ネグレイラ事件の法的なポイントを聞いた。ラヘ氏は、UEFAこそ「人々が過小評価している本当の脅威」だと語る。
✅ 解説するのはどんな人?
UEFAがマドリーからネグレイラ事件の資料を受け取ったことで、フロレンティーノ・ペレス会長が「スポーツ史上最も深刻な腐敗事件」と呼ぶこの件に、再び注目が集まっている。 その中で、マドリディスモの間で拡散されたのが、ラヘ氏のSNSでの解説だった。スペイン北西部オウレンセで約20年活動する刑法専門の弁護士で、今後執筆する博士論文のテーマは、この事件の中心となる刑法286条の2第4項の「スポーツにおける私人間の汚職」だという。
✅ 「罰するのは結果ではなく合意」
ラヘ氏がまず強調するのが「抽象的危険」という考え方だ。 「スポーツの汚職を罰する刑法の規定は、結果ではなく合意を罰する。つまり、試合が八百長だったと証明する必要はない。有利な扱いを得るための約束があったと証明すれば十分だ。飲酒運転と同じ理屈で、事故が起きなくても犯罪になる。だから『八百長の試合は1つもない』という主張は、言葉としては成り立っても、法的な反論にはならない」 ラヘ氏は、最高裁がすでに2023年1月のオサスナ事件でこの規定を適用し、スペインで初めてスポーツ汚職の有罪判決が確定したことも指摘する。
✅ 「中立性を買う」という矛盾
バルサは、支払いは審判の「中立性」を確保するためだったとしている。これについてラヘ氏は、「中立性」という言葉そのものに法的な落とし穴があると言う。 「この規定が守っているのは競技の公正性、つまりすべてのクラブが審判制度の前で平等な条件で戦うことだ。審判の中立性は、クラブが買えるサービスではなく、すべてのチームに対する制度側の義務だ。中立性を『確保する』ためにお金を払うということは、払わなければ他と同じ条件で中立性を得られないと暗に言っていることになる」 有利な扱いを求めるという目的(主観的要素)は、録音や自白ではなく、複数の状況証拠を積み重ねて立証するものだという。最高裁はオサスナ事件でも、この方法を認めている。
✅ 時効がなかったらどうなっていた?
ラヘ氏は、2つの面を分けて考える必要があると説明する。 スポーツ行政の面では、時効はわずか3年。時効でなければ、スポーツ上級評議会(CSD)による1件あたり最大40万ユーロの罰金や役員の資格停止、連盟によるユヴェントスのような勝ち点はく奪もありえたという。「バルサは、この種のケースを想定していない短い時効の恩恵を受けた。技術的には正当だが、疑問は残る」 刑事面では、ラポルタ会長の2003〜2010年の在任期間は時効で打ち切られた。だからラポルタ会長は被疑者ではなく証人として証言しているのだという。 「そして、比べられるような時効がない3つ目の道がある。UEFAだ。そこが、人々が過小評価している本当の脅威だ」
✅ UEFAは「スペインの最高裁を待たない」
ラヘ氏によると、UEFAはこれまで、手続きを閉じずに様子を見るという「上品な不作為」を続けてきた。しかし、マドリー、ラ・リーガ、連盟からの報告で、その慎重姿勢を見直さざるを得なくなっている。 「公判開始の決定が出れば、私はほぼ確実だと見ているが、UEFAは独自の手続きを始めるのに必要な文脈を得ることになる。UEFAはスペインの最高裁を待たない。独自の試合をしている。UEFAの懲戒処分は、スペインで刑事判決が確定する何年も前に出る可能性がある」
✅ 過去のUEFAの処分
UEFAの処分の幅は広い。上限のない罰金、勝ち点の減点、欧州カップ戦からの除外、選手登録の禁止、例外的にはタイトルのはく奪まである。 前例としてラヘ氏は、1993年にスーパーカップ、インターコンチネンタルカップ、CLから除外されたマルセイユ、2年間欧州の大会から締め出されたフェネルバフチェ、1年のベシクタシュ、2013年にCLから除外されたメタリスト・ハルキウを挙げる。「ネグレイラ事件で処分の時が来れば、金額の大きさと17年という期間は加重要素になる」 スペインに最も近い例はオサスナだ。最高裁の判決後、UEFAはオサスナを2023-24シーズンのカンファレンスリーグから暫定的に除外した。スポーツ仲裁裁判所(CAS)がその後この除外を取り消し、オサスナは出場できたが、UEFAが独自に即座に動いたことが重要だという。
✅ アームストロングやユヴェントスとは違う
ランス・アームストロングやユヴェントスのように、タイトルはく奪まで行くのか、という質問には、構造が違うと答えた。 アームストロングは検体や薬物の痕跡といった直接的な証拠で、ユヴェントスの「カルチョポリ」も、強化責任者と審判関係者の電話の録音という直接証拠で処分された。 「ネグレイラ事件は、状況証拠を積み重ねて構築される。本当に比較できる前例はアームストロングでもユヴェントスでもなく、オサスナ事件だ」
✅ マドリーは「3つの盤上」で戦っている
マドリーの戦略については、3つの盤上で同時に戦っていると分析する。 1つ目は刑事手続き。私訴原告として加わったことで、捜査記録をすべて閲覧でき、証拠を提出し、尋問に参加し、何より手続きを打ち切ろうとする動きに不服を申し立てられる。「検察がためらっても、マドリーが訴追を続ける限り、手続きは生き続ける」 2つ目は国際的なスポーツの場。UEFAやFIFAへの報告は、スペインの刑事手続きとは独立した懲戒の仕組みを動かす。マドリーは、こちらの方が何年も早く結果が出る可能性を知っているという。 3つ目はメディアと世論。事件への注目を保つことで、ひっそりと打ち切られたり軽い結論で終わったりするのを防ぐ狙いがある。 「競争上の思惑があるのは隠さない。だが法的には関係ない。私訴原告に利他的な動機は求められていない。手続き的によく組み立てられた戦略だ」
✅ 「バルサは無罪と推定される」
バルサの弁護戦略を問われると、ラヘ氏は答えるのは自分の役割ではないとしたうえで、こう強調した。 「バルサは、どんな人や団体とも同じく、推定無罪の原則に守られている。有罪判決が確定するまで、クラブは法的に無罪だ。さらに『疑わしきは被告人の利益に』の原則もある。メディアの騒ぎで世論がこれを忘れがちだからこそ、あえて言っておきたい」 有罪になるかどうかの予想も控えた。「開かれた事件の予想はしたくない。判断するのは裁判所だ」
✅ マドリディスタだが「最も好きなバルサはクライフのドリームチーム」
ラヘ氏は、自身が物心ついたときからのマドリディスタだと明かしたうえで、「ファンとしての自分と法律家としての自分は別の次元にある。次のクラシコで誰が勝とうと関係ない」と話す。 最も好きだったバルサは、ヨハン・クライフ監督の「ドリームチーム」だという。「スペインサッカーに起きた最高の出来事の一つだった。ライバルの偉大さを認めることも、誠実なファンであることの一部だ」 そして最後にこう付け加えた。「罪に問われている事実は、特定の時期の特定の人物に関するものであって、歴史的な存在としてのバルサや、そのファンや選手に関するものではない。真剣な法律家は、その区別を保たなければならない」
※ネグレイラ事件はスペインで刑事手続きが進行中で、バルサは不正を否定しています。本記事は弁護士の見解を紹介したものです。
※ネグレイラ事件については「UEFAがレアル・マドリードからの大量の資料受領を発表」、「バルサが反論『手続きは再開されていない』」でも伝えています。
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